貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

「おちゃ! いれるね!」

 ぴょこんと飛び退いて、食器棚からティーポットを取り出す。

 目の前がチカチカするような、恥じらいと焦りと動揺が頭の中でぐるぐる巡る。

(明人くんって、こんなに意地悪だったっけ)

「ありがとうございます」

 背後から聞こえる声は、いつも通りの淡々とした調子だった。

 ほっとするような、名残惜しいような。

 何事もなかったかのように、明人はいつものマグカップを取り出している。

(でも、嫌じゃない……)

 嫌じゃないどころか、浮かれて舞い上がってしまっている。

 感じたことのない、濃密な、甘く激しい、薔薇色の気持ちのさざなみ。

 まだときめく胸を抑えようとしながらも、次の彼の"意地悪"を、待ってしまう自分がいる。

 詩乃は、茶葉の缶をひっくり返しそうになりながらお茶の準備に集中しようとした。
 
 
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