ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
「アンドレア様はケラー家に迷惑をかけられないと、最期までそうおっしゃっておりました」
「そう……アンドレアらしいわ」

 しんみりと言って、エリーゼはマリーの顔を見た。

「それにポール様には失望してしまったわ。ね、そうでしょう? マリー」
「はい……アンドレア様が亡くなられたときに、葬儀すら使用人任せで……結局、アンドレア様はわたしを含め、数人で見送らせていただきました……」
「お腹に子もいたのに……わたくし、本当に腹立たしいですわ」
「わたしも早々に(いとま)をいただいて参りました。アンドレア様のいないシュナイダー家などいる意味はありませんから」
「それ以上は口を慎め」

 鋭く言うと、ケラー侯爵は不機嫌そうに食前酒を煽った。

「でもお義父様……今日はアンドレアの誕生日ですのよ。今日くらいはお許しいただいたってバチはあたりませんでしょう?」

 そのとき、きぃ……とドアが開いた。
 その奥の暗がりから、誰かが音もなく中へと歩み寄ってくる。
 何とはなしにその人物を見やって、ケラー侯爵は手にしていたグラスを取り落とした。
 引き()れた悲鳴を上げて中途半端に立ち上がる。

「ア……ア……!」
「お義父様? どうされました?」

 その様子にエリーゼは不思議そうに小首傾げた。
 青ざめたケラー侯爵の震える指が、何やら入口の方を指し示している。

「あ、あ、あ、あそこに!」
「あそこに?」

 何も見えないそぶりで、エリーゼはそちらに視線をやった。

「あちらに何かございまして?」
「何を言っている! あそこにアンドレアがいるではないか!」
「アンドレアが?」

 困惑気味にエリーゼがマリーを見る。
 マリーも分からないといったように首を傾げた。

「アンドレア様はもうお亡くなりになられました」
「そんなことは知っている! だがあそこにいるのは何なのだ!」

 そのときエリーゼとマリーが不自然に動きを止めた。
 ふたりとも一点を見つめたまま、ぴくりとも動かず固まっている。

「お前たちにも見えるだろう? おい、どうした。見えると言ってくれ!」

 動揺のあまり、ケラー侯爵は後ずさって椅子を倒した。
 その間にもアンドレアはゆっくりと歩を進める。
 睨むように、ケラー侯爵だけを凝視し続けながら。
< 103 / 138 >

この作品をシェア

pagetop