ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
 ふふっと笑みを漏らすと、いきなりエドガーは大声でアンドレアを指さした。

「そう! それだ!!」
「そ、それってどれのことよ」

 不躾に向けられた指先を、唇を尖らせ手で払い退ける。
 その手をつかみ取ると、エドガーはアンドレアの指先に唇を押し当てた。

「俺はその笑顔が見たいんだ。アンドレアの笑顔を守るためだったら、俺はどんな努力も惜しまない」

 言いながら、エドガーは手の甲をやさしく(ついば)んでくる。
 かっと頬を真っ赤に染めて、アンドレアは慌てて手を引っ込めた。

「も、もう、変な冗談ばっかり」
「冗談なものか。俺のアンドレアへの愛を舐めるなよ。溢れ出しすぎて俺自身が溺れそうなんだ」
「マリー! ねぇ、マリー、早く来て!!」
「お呼びでしょうか、アンドレア様」

 焦り気味のアンドレアの口調に、慌てたマリーが駆け寄って来た。

「なんだかエドガーがおかしいのよ! 一刻も早く医師に診てもらわないと大変だわ!」
「ああ、それでしたら……」

 正確に事情を把握して、マリーはにっこりと笑顔になった。

「エドガー様はもともとそのような感じだったかと」
「そんなことないわ、よぉく思い出して! エドガーなんてもっと飄々としてて、いまいち何を考えているかよく分からなかったじゃないの!」
「俺も上手いこと隠せたものだな」

 しみじみ言って、エドガーはひとりうんうんと頷いた。

「本当に……エドガー様は長いことご苦労なさいましたねぇ」
「分かってくれるか、マリー」
「ええ、それはもちろん。わたしはアンドレア様をずっとそばで見守っておりましたから」
「ちょっと、ふたりしてよく分からない会話をしないでちょうだい!」

 猛抗議をするアンドレアの腕の中で、赤ん坊がきゃっきゃと楽しげな声を立てた。
 その笑い声を聞いただけで、アンドレアは至福の表情に様変わりする。

「ああ、この子の笑顔も全力で守らなくてはな……」

 ぽつりと漏れたエドガーの言葉は、嘘偽りのない純粋な愛だった。
 これこそが本来の奉仕の在り方なのだろう。
 今までになく満たされた心で、アンドレアはそんなふうに考えた。
 エドガーと同じ思いを、愛しい我が子へと注ぎながら。

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