ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
 その顔は何事もなかったかのように平然としている。

「迫真の演技だったわね、マリー」

 衝立(ついたて)の影から黒いマントを羽織った女が現れる。
 それはフードを目深にかぶったアンドレアだった。

「それはもう、蝋人形とはいえアンドレア様のこのようなお姿を見たら……」
「ほんと、よくできているわよね」

 視線を落とした寝台には、今も青白い顔のアンドレアが寝かされている。
 目鼻立ちから髪の色・ホクロの位置まで、何から何までアンドレアそのものだ。

「にしてもポールったら。曲がりなりにも妻が死んだのよ? それなのに顔すらも確認しないだなんて。特注で作らせた甲斐がないわ」

 アンドレアが呆れたように肩をすくめたそのとき、壁に掛けられた大きなタペストリーが不自然に揺れ動いた。
 タペストリーの後ろから、顔下半分を黒い布で覆ったエドガーが顔を覗かせる。

「アンドレア、準備はいいか?」
「ええ」

 一変して真剣な顔になると、アンドレアはマリーとヘレナ、そして医師の男を順に見回した。

「では、わたくしは行くわ」
「はい、あとのことはマリーにお任せください」
「アンドレア様のためにわたしも最善を尽くします」
「最後まで見届けますゆえ、どうぞご安心ください」
「ありがとう、みんな。でも危険だと感じたら絶対に無理はしないで」

 三人が頷いたのを確認すると、アンドレアはタペストリーの裏に隠された通路に身を滑り込ませた。

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