失恋したので復讐します
プロローグ

「それなら復讐しちゃえば?」

 ――復讐――。

 その言葉がもたらしたインパクトに、山(やま)岸(ぎし)千(ち)尋(ひろ)はぴしりと固まった。

「捨てた男にやり返すってこと」
「そ、そんなの駄目でしょ!」

 たしかに、結婚まで考えていた恋人の啓(けい)人(と)に裏切られたことで、どん底まで落ち込んでいる。
 恨みがないと言ったら嘘になるかもしれない。

 だからといって相手を傷つけたいとまでは思わない。けれど――。

「たぶん、山岸さんが想像しているようなことじゃない」
「え?」
「俺が言う復讐は、相手を後悔させてみないかってこと。別れなければよかったって悔しがらせるんだよ」

 まるで悪魔の誘惑のようなささやきが、千尋の心に浸透していく。
 自分を手ひどく捨てた彼に後悔させる。
 きっとそれこそが、千尋が心の底で一番願っていることだ。

「自分を磨いて今よりいい女になるんだよ。誰からも軽んじられないほどに」

 力強い声に、希望が生まれる。

「……本当にそんなふうになれたらいいな」

 ぽつりと漏らした小さな声に、彼が満足そうに微笑んだ。

「俺も協力するよ。俺たちは復讐の共犯者だ」

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