宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「アルベルト・ガウス」

 次いで王女の騎士が、令嬢の横で大きく(こうべ)()れる。

「そなたも王女によく仕えてくれた。その功績を(たた)え、貴族の地位および財を授けることとする」
「身に余る光栄でございます」

 一拍置いたのち、ハインリヒはさらに続けて騎士に告げた。

「それに伴い、今をもってそなたを第一王女の護衛の任から外す。王城に一室を用意させた。今後の処遇は追って申し渡すゆえ、それまではそこで待つように」

 驚きの表情で、騎士は一瞬顔を上げかけた。だが言葉を飲み込んで、再び深く礼を取る。

「王の……仰せのままに」

 彼の声は震えていた。絞り出されたようなそれを背に、王女は表情を変えずに前を向いている。

「王、わたくしの願いを聞き届けていただき、心より感謝いたします」
「ああ、その者については万事(ばんじ)うまく取り計らおう」

 王女の言葉に、壇上からも分かるくらい騎士の体が震えた。彼は王女に捨てられたのだ。そんな悲劇にアンネマリーの目には映った。

 いたたまれない雰囲気のまま、謁見の場は幕を閉じる。
 王女と令嬢は王族用の扉へと向かい、残された騎士は絶望の顔で、貴族用の扉から姿を消した。

 その様を目で追って、アンネマリーはふいに手を握られた。遠い瞳のままハインリヒは、王女が出ていった扉を見つめている。

「……王とは無力なものだな」

 握る手に力が入る。そこに自身の手を重ね、アンネマリーはハインリヒと見つめ合った。

「ずっとおそばでお支えしております。国のため、どうぞ、王は迷わずお進みください」
「……そうだな。迷うなど、何も意味はない」

 静かに言ってハインリヒは、再び遥か遠くをじっと見据えた。

< 236 / 391 >

この作品をシェア

pagetop