宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
「人払いを」

 玉座に座る王の言葉に、当事者だけが残された。目の前で礼を取っているのはクリスティーナ王女だ。そのさらに後方に令嬢と護衛の騎士が控えている。

 王妃となってしばらく経つが、アンネマリーが第一王女に会うのは初めてのことだ。顔立ちは妹姫のテレーズよりも、弟のハインリヒとよく似ている。
 美しい人だとそう思った。生まれながらにして王女として生きてきた。そんな気品と誇りが、彼女からは感じられた。

 遥か遠くを見つめる瞳で、ハインリヒが王女に視線を落とす。それはどこか(うれ)いをはらんでいるかに見えて、アンネマリーはその横顔を戸惑いと共に見守った。

「ハインリヒ王、最後にこうして立派になられた姿を目にすることができ、わたくしもうれしく思っております」

 感慨深げなその言葉は、王に対してというよりも、大切な弟に向けたものなのだろう。慈しむような王女の瞳に、ハインリヒはただ静かに頷いた。

「父上たちにはもう?」
「はい、先ほど挨拶は済ませてきました。思い残すことはありません」

 そのやり取りはまるで今生(こんじょう)の別れに見えた。困惑しつつ、口を(はさ)むこともできない。アンネマリーはこの謁見(えっけん)の場で、たったひとりの傍観者だった。

「ヘッダ・バルテン子爵令嬢。長きに渡り第一王女によく仕えてくれた。褒美(ほうび)としてそなたの願いを聞こう」

 奥に控えていた令嬢に声がかけられる。その令嬢は臆することなく顔を上げた。

「わたくしの願いはただひとつにございます。クリスティーナ王女殿下の行く道が、この先も安寧(あんねい)であることを……それだけを望みます」
相分(あいわ)かった。最後まで責任を持って見届けよう」
「ありがたきお言葉にございます」

 重く響く声で頷いた王に、笑みをこぼして令嬢は深く礼を取った。

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