宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-

第19話 救国の聖女

「え? 帰るのを一日待ってほしい?」
「はい、なんでも神殿からそう申し入れがあったそうで……」
「神殿から……?」

 エラの言葉に首をかしげる。事情聴取は終わったので、もう帰っていい。騎士団からそう言われ、明日にフーゲンベルク家に戻ることになった。朝一で出発できるようにと、帰り支度を始めた矢先のことだ。

「いい、従う義務はない」

 エラとのおしゃべりを黙って聞いていたジークヴァルトが不機嫌そうに言った。手を引かれ膝に乗せられる。そのままあーんが始まった。離れ離れの日々が続いてノルマはたまりにたまった状態だ。ひな鳥のごとくリーゼロッテはおとなしく口を開いた。
 だが数口食べると、もうお腹がいっぱいになってくる。王女のことがあってから、食べる気力も湧かなかった。そんな様子を見て、ジークヴァルトも伸ばしかけた手を途中で止めた。

「本当に帰っても大丈夫なのですか?」
「ああ、予定通り明日には戻る。このまま準備をしておけ」

 エラが頷き、帰り支度を再開すべく部屋を出ていった。ふたりきりになって沈黙が訪れる。
 膝抱っこも久しぶりすぎて、妙に緊張してしまう。以前は平気だったはずなのに、うれしいのに落ちつけない。こんなときどんな会話をしていただろうか。顔を見上げるも、ジークヴァルトは黙ったままだ。

(何か話題を探さなきゃ……)

 そんな思案をしていると、大きな手が確かめるようにおでこにあてられた。

「まだつらいのか?」
「え、いえ、もう熱は下がりましたから」

 リーゼロッテはその手を頬へと導いた。寝込んでいた間の記憶は飛び飛びだが、ずっとそばにいてくれたように思う。預けるように頬ずりすると、肩を強く抱き寄せられた。

「ご心配をおかけしました。でももう大丈夫ですわ」
「そうか」

 体内で力が満ち溢れているのが分かる。ふわふわと掴みどころのなかった緑は、無駄に漏れ出ることなく、今はきちんとこの身に収まりきっていた。

「どうした?」
「力の流れが穏やかで、今までにない感じがなんだか不思議で……」

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