宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-

第7話 夢見の少年

 朝食を終え、何もすることがなくなったリーゼロッテは、小さくため息をついた。
 気ままにひとりで食べる食事も、続くとやはり味気ない。ここ数日顔を合わせているのは、アルベルトとヘッダだけだ。だがヘッダは食事を届けに来るだけで、ろくに会話もせずにすぐ行ってしまう。

 東宮には本当に異形の者はいないようだった。部屋も廊下もテラスから見える外も、空気が澄みきっていてとても気持ちがいい。

(でも小鬼の一匹でもいれば、話を聞くこともできるのに……)
 あのきゅるんなお目目が懐かしく思えて、リーゼロッテは再びため息をついた。

 そのとき扉が叩かれた。この時間、いつも決まってアルベルトがやってくる。リーゼロッテはぱっと瞳を輝かせた。

「本日の分です」

 手渡されたのはジークヴァルトからの手紙だ。毎日のように届くそれだけが、リーゼロッテの唯一の心の支えだ。

「わたくしはこちらを……」

 夕べ書いた(ふみ)をアルベルトへと差し出した。お預かりしますと笑顔で受け取られ、リーゼロッテはすまなそうな顔になる。

「アルベルト様、あの、毎日お手数をおかけして申し訳ございません」
「なぜお謝りに? クリスティーナ様も許可なさっていることです。お気になどなさらずに」
「はい……ありがとうございます」

 毎日手紙を出さないと、どうした何があったとジークヴァルトはしつこいくらいに手紙をよこしてくる。家の者に配達を頼むなら「よろしくね」で済む話だが、王女付きのアルベルトたちの手を煩わせるのもためらわれるというものだ。

「あと、クリスティーナ様からのご伝言が。東宮の敷地内でしたら好きに過ごされていいとのことです」
「お庭に出ても大丈夫なのですか?」
「はい、塀を越えて外に出たりしなければ問題はありません。もしご不安なようでしたらヘッダ様をお呼びになってください。ここはそれほど広くはありませんが、慣れるまでは案内がいた方がリーゼロッテ様もご安心でしょう」

 ヘッダの名に顔が曇った。頼んだことはきちんとこなしてくれるし、直接的な嫌がらせをされることもない。だが彼女に嫌われていることは明らかだ。

(神託で呼ばれたとはいえ、わたしは平穏な生活を乱す存在なんだわ……)

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