宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 そうは言ってもリーゼロッテ自身、いたくてここにいるわけではない。お互い、接触をできるだけ避けるような毎日が、ここずっと続いていた。

「ただ神官がやってくることが度々あるので、その時はお部屋にいていただけると助かります」
「神官様が来られるのですか?」
「クリスティーナ様は夢見の力をお持ちです。その関係でよく顔を出すのですよ」
「夢見の力……」

 貴族街での神がかった王女の姿を思い出す。それは聖女のように清らかで、とても神聖なものだった。

「あの占いも夢見だったのでしょうか……?」

 なんとはなしに問うが、待てども返事は返ってこない。顔を上げると、苦い笑みを浮かべたアルベルトが、黙ってこちらを見つめていた。

「わたくし、不躾(ぶしつけ)な詮索を!」
「いえ、ただの目隠しですよ。龍がお考えになることは、わたしなどには到底理解が及びません」

 諦めを含んだような静かな笑みに、返す言葉が見つからなかった。

「では、これで失礼いたします」
 一礼してアルベルトは扉を閉めた。

 ひとりきりになった部屋で封筒を開く。ジークヴァルトの手紙はいつもそっけない内容だ。だがちょっと(くせ)のある文字すら愛おしい。会いたいと、何度手紙に書こうと思ったことか。

(駄目よ、我慢しないと。ヴァルト様はお忙しいんだもの)

 自分が会いに行くならまだしも、何時間もかけてやってくるジークヴァルトを思うと、さびしいからとわがままばかりも言っていられない。

 もらった手紙を数えるように、順番に目を通していく。短い手紙はあっという間に一巡して、リーゼロッテは何度かそれを繰り返した。

(やっぱり会いたい……)

 青い瞳を覗き込んで、大きな手に触れてもらって、その広い胸に身を預けて――

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