友達なんだと思ってた。

第六章 すれ違いの果て




夕方、教室にはもう数人しか残っていなかった。

掃除の後で、窓から入る風がカーテンをふわっと持ち上げる。

わたしは、今日こそ話そうと決めていた。


玲杏は一人で席に座り、スマホをいじっていた。紗綾もいない、チャンスは今しかない。


「玲杏......」


その名前を呼ぶだけで、喉が乾いた。

言葉が震えそうになるのを必死で飲み込む。

「...話したいことがあるの」

杏はスマホから目を離さなかった。でも、薄く笑って、声だけ返した。


「なに?また泣きそうな顔で『どうして?』とか聞いてくるの?」

もう、泣きそうだった。

あの頃の玲杏との関係が、喉から手が出るほど欲しくてたまらない。

裏切られても、玲杏にとっては「めんどくさいやつ」でも、



わたしには、玲杏しかいないんだよ。


「晴翔くんのこと......ごめん。わたし、奪おうとしたわけじゃない。
でも、避けられる理由がそれなら、ちゃんと謝る」

一瞬、スクロールしている玲杏の指が止まる。
それから、スマホを机に投げるように置いた。


「は?なにそれ、マジでウケるんだけど!」


怒鳴り声に近い声。

わたしはびくっとしたけど、逃げなかった。


「別に奪われたなんて思ってないし!そもそも、好きな人くらい自由にしてよ」

立ち上がった玲杏の口元は、上がっていた。
でも、その笑顔は顔だけで、目は濁っていた。


「ほんっとうにムカつくの、あんたって。黙って大人しいフリして、実は男にだけはいい顔して。
うちらのこと、見下してるんでしょ?」


“うちら”。
玲杏も、紗綾も、見下した?
わたしが?

そんなわけ、…

「そんなことしてないよ!!」

心臓が、今にも出そうで。
だんだん視界が歪んでいって。


「ずっと思ってたんだよ、なんであんたと仲良くしてたんだろうって。
話しても反応薄いし、空気読みすぎで何も喋らないし。
でも、 友達いないみたい だったから、仕方なく一緒にいたんだよ」


息が止まりそうだった。
一粒、涙が頬を伝った。

拭わなかった。
逃げなかった。


「……それ全部、本当の気持ち?」

確かめたい。
もし、玲杏が“嘘”をついているのなら。


玲杏は一瞬、言葉に詰まった。
そして、吐き捨てるように言った。


「.....本当だよ。
もうあんたとは、一緒にいたくない」


そう言って、荷物を掴むと、足音を立てて教室を出て行った。

静けさだけが残った。

わたしは、自分の震える手を見下ろした。
杏の叫んだ言葉が、頭の中で何度もリピートされる。


“友達がいないみたい”だから、一緒にいたんだ。

じゃあわたしは、本格的な“ぼっち”じゃんね。


これで、わたしは学んだ。


もう、玲杏と仲直りすることはできない、って。

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