可愛い後輩くんは、スポーツ系御曹司でした ~秘密のギャップで溺愛されています~

プロローグ

「田中先輩……いえ、志帆(しほ)さんって呼んでいいですか」

 蓮見(はすみ)くんの熱っぽい視線に私はたじろぐしかなかった。
 だって、少し前まで彼は四歳下の可愛い後輩でしかなかったのだ。

 イケメンなのにそれを鼻にかけない爽やかで明るい青年。
 研修を終えたばかりの新入社員。
 それだけだったのに。

 今、彼は一人の男として私の前に立っている。
 いくつもの出来事を介して、蓮見くんが私を大事に思ってくれているのは伝わってきた。

 でも、彼はそれ以上を求めてきた。
 私は蓮見くんの熱い気持ちを断れなかった。
 ううん、私も彼のことを好きになっていたのだ。もしかしたら、ずっと前から。

「あ、あの蓮見くん……」
「社外では洋輝(ひろき)って呼んでもらえると嬉しいです」

 さらっと言われ、私は慌てふためいた。

「そんな、急に無理だよ!」

 蓮見くんがぷっとふきだす。

「じゃあ、ゆっくりでいいです」

 なんなの、もう。
 余裕の笑みを見せる彼は、『可愛い後輩』という(わく)からはみ出してしまっている。

 やだな。きっと顔が真っ赤になってしまっている。
 そんな顔、見られたくない。

「志帆さん」

 そっと蓮見くんが顔を寄せてくる。

「こっち見てください」
「~っ!」

 優しくささやく声は、まるで船乗りを誘うセイレーンのように魅惑的だ。
 思わず顔を上げてしまいそうになる。

 私は頼れる先輩だったはずなのに。
 年下の男の子なんて恋愛対象外だったのに。

 いつから立場が逆転してしまったのだろう。
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