ガラスの魔法、偽りの花嫁

第22章 偽りから真実へ

 発表会から数日後。
 屋敷の空気は、以前とはまるで違っていた。
 透真と玲奈が並んで歩けば、使用人たちの表情は自然とほころび、まるで本物の夫婦を祝福しているかのようだった。

 だが――玲奈の胸の奥には、まだ拭いきれない不安が残っていた。
 「契約」という言葉が、ずっと二人を縛ってきたからだ。



 ある夜、玲奈は思い切って透真に問いかけた。
「透真さん……私たちの契約、まだ続いているんでしょうか」

 透真は少し驚いたように彼女を見つめ、やがて微笑んだ。
「契約? ……ああ、そんなものもあったな」

 玲奈は息を呑む。
 透真はゆっくりと懐から一枚の書類を取り出した。
 それは、あの日サインした契約書。

「もう必要ない」

 彼は契約書を破り捨て、暖炉に投げ入れた。
 炎が紙を呑み込み、過去を焼き尽くしていく。



 玲奈の瞳に涙が浮かぶ。
「……本当に、いいんですか」

 透真は彼女の両手を包み込み、真剣な眼差しを向けた。
「俺に必要なのは契約じゃない。……お前だ」

 その言葉に、玲奈の胸が熱くなる。

「玲奈。これからは“偽りの花嫁”じゃなく、俺の“真実の妻”として、ずっと隣にいてくれ」

 玲奈の頬を涙が伝った。
 しかし、その涙は悲しみではなく、溢れるほどの幸福の証だった。

「はい……喜んで」



 透真は玲奈を抱き寄せ、唇を重ねた。
 それは初めて交わした夜よりもずっと深く、永遠を誓うものだった。

 外の庭園では、初夏の薔薇が咲き誇っていた。
 その香りが、二人の愛を祝福するように漂う。

 ――かつては「偽り」と呼ばれた結婚。
 だが今、そこにあるのは揺るぎない「真実」の愛。

 二人の物語は、ようやく本当の始まりを迎えたのだった。
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