その後の話 あるいは これから始まる話


日向さんと同棲に向けて部屋の片付けをしていたある日。
机の引き出しを整理していると、奥の方に一枚の紙片が残されていた。

それは、まだ付き合う前。高校生だった頃。
大学医学部に合格したと報告した日のこと。
彼が差し出してくれた――名刺だった。

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 東都心大学医学部附属病院
 循環器内科 医師

 御崎 日向
 Hinata Misaki

E-mail: h.misaki@tohshin-u.ac.jp
Tel: 03-xxxx-xxxx(直通)
Fax: 03-xxxx-xxxx
〒100-0001 東京都千代田区○○町1-1-1

───────────────────

名刺を指先で撫でた瞬間、あの日の声が胸の奥に甦る。

『何か困ったことがあったら、いつでも連絡して。
勉強のことでも、生活のことでも……なんだっていい』

少し真面目すぎる調子で、でもどこか安心させようとするように。

『一応プライベートのも裏に書いとくよ。
学生とあんまりそういうことすると怒られそうだけど……前から知り合いだったなら、許されるだろ』

思い返すと、あの日の空気まで鮮明に蘇ってくる。

『……大丈夫。
中野さんなら、絶対に素敵な医者になる』

胸が熱くなり、思わず小さく笑みがこぼれた。
名刺の文字は少し色あせている。
けれど、そのときの言葉も、眼差しも、今の彼と何ひとつ変わっていない。

部屋の奥から聞こえる日向さんの声。
「桜ー、捨てる本はまとめといてくれ」

「……はーい」
返事をしながら、名刺を引き出しに戻す。
これは、二度と捨てることはないだろう。

彼と自分を繋いでくれた日々の証であり、これから先を共に生きる証でもあるのだから。


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