一夜限りの契約妻──冷徹御曹司の独占愛は甘すぎて逃げられない
食事を終えて店を出ると、夜風が頬を撫でた。

街の灯りがきらめき、レストランの温かな余韻がまだ胸に残っている。

「楽しかったな。」

聖さんが隣でつぶやく。

その声がやけに近くて、心臓がまた速く打ち始めた。

歩みを止めた彼が、ふと私を見つめる。

「昨日言った事、覚えてる?」

唐突な言葉に、胸が大きく揺れる。

「デートの中身がよければ、ホテルに行くって事ですか?」

「ああ。」

返事を探して視線をさまよわせると、彼は静かに続けた。

「いいなら……俺にキスして。」

「えっ……」

思わず声が裏返る。こんな人混みの中で? 

でも、彼の瞳は真剣で、私の心をまっすぐ射抜いてくる。

唇が乾く。緊張で足がすくむ。

それでも──ほんの少し体を伸ばして、私は彼の頬にそっと触れ、震える唇を重ねた。

「……真帆。」

低く名前を呼ばれた瞬間、聖さんの腕が強く回される。

思わず体が彼の胸に吸い込まれた。

硬いスーツ越しに感じる温もり、耳元に落ちる熱い吐息。

「思わず抱きしめてしまった……」

囁きは、まるで告白のように甘く響いた。

人々のざわめきも夜風の冷たさも、もう耳に入らない。

今の私を支配しているのは、この腕の力強さと、胸の奥に広がる甘い鼓動だけだった。
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