気まぐれヒーロー2



「そんなわけ、ないじゃん……田川くんがそんなこと言うわけ、な──」



それよりも。

田川への疑いを必死に否定しようとする、か細い声が聞こえた。
その声は、ハイジと田川たちの間にそっと割り込むように響く。

いや、どちらかといえば自分に言い聞かせているような。

とにかく、弱々しい声だった。


声の主は、本城咲妃の取り巻きのうちの一人。

少し濃いめのメイクをしたその子が訴えかける相手は、ハイジだった。


長い睫毛の奥、黒いラインで縁取られた目が、私の前に立つ緑髪の男をじっと見据えている。


私には、ハイジの背中しか見えないのに。


すごく……“危険”だって、思ったんだ。


一瞬、風の流れが変わった。
空気の温度も、色も、少しだけ。

鳥肌が立つ。
背筋がゾクリとした。


──アブナイ。


そう思ったのと、ハイジが動いたのは、同時。


廊下の端に置いてあったゴミ箱が、思いきり蹴り飛ばされる。
取り巻きの女の子めがけて、すごい勢いで一直線に突っ込んでいく。


声を出す暇もなく──


“きゃあっ……!!”


頭を抱えてしゃがみこむ女の子。
あちこちであがる、悲鳴。


そして次の瞬間、
壁に激突したゴミ箱が派手な音をたて、廊下中に響き渡った。

鼓膜をビリビリと震わせるほどの轟音。

けれど、すぐに静寂が戻る。

床には、紙くずや飲み終えた紙パック、そんなゴミ箱の中身が散乱していた。


幸い、誰にも当たらなかった。


全員が顔を強ばらせ、蒼白のまま立ち尽くしている。

私だって同じ。

今、何が起こったのか──理解するのに時間がかかった。


プラスチック製とはいえ、あの速度で、あの距離を飛んできたら……もし誰かに当たってたら。

考えるだけで、背中を冷や汗が伝う。


蹲ったままの女の子はガタガタ震えながら、恐る恐る顔を上げた。

見ていて痛々しいほど、彼女は怯えきっていた。


そして──



「誰だてめえは。なに勝手に喋ってんだ、死にてえのか」



ハイジは容赦なんか、しない。


情けをかけることはない。




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