嘘つきなあなたに、もう一度恋をしますか?~冷たい仮面の下の真実~
第10章 令嬢の罠
会議を終えた怜司は、重たい資料を机に置くと、疲労を隠すように額を押さえた。
その静寂を破るように、扉が開く。
「ごきげんよう、怜司さま」
現れたのは神宮寺玲奈だった。
鮮やかなワインレッドのスーツに身を包み、艶やかな笑みを浮かべている。
「……君が、なぜここに」
「父の代理ですわ。今回の案件は私が任されましたの」
玲奈は軽やかに歩み寄り、テーブルに書類を置いた。
その仕草は優雅だが、瞳の奥には冷たい光が宿っている。
「怜司さま。奥さまとのこと……うまくいっていないのでしょう?」
「……何のつもりだ」
「別に。ただ、お気の毒だと思って」
玲奈は挑発的に微笑みながら、怜司の目をまっすぐに見た。
「私なら……あなたを孤独にしないのに」
怜司の眉が鋭く寄る。
「ふざけるな。俺には紗良がいる」
「……本当に? 奥さまは、あなたを信じていないと仰っていたわ」
その言葉に、怜司の拳が机の下で固く握られる。
玲奈はその反応を確かめるように、ゆっくりと微笑を深めた。
(――これでいい。父の望み通り、二人の仲を引き裂く。それが私の役目)
心の中でそう繰り返しながらも、胸の奥にかすかな痛みが生まれていた。
「怜司さま。あなたほどの人に、どうしてあんなに疑う妻がふさわしいのかしら」
「黙れ。紗良を侮辱するな」
怜司の声は鋭く、玲奈の胸を突き刺す。
本来なら反発すべきその言葉が、なぜか熱く心を震わせた。
(どうして……こんなふうに胸が高鳴るの)
会議室を後にした玲奈は、ひとり廊下を歩きながら、自分の鼓動の速さに戸惑っていた。
「……おかしいわね。これは任務のはずなのに」
父の命令を果たすために仕掛けたはずの罠。
けれどその裏で、玲奈の心は気づかぬうちに揺れ動き始めていた。