嘘つきなあなたに、もう一度恋をしますか?~冷たい仮面の下の真実~
第11章 仕組まれた計画
夜、神宮寺邸の応接間。
重厚なランプが照らす机の向こうで、神宮寺英臣はグラスを傾けていた。
琥珀色の液体が揺れるたび、冷ややかな光が彼の瞳に宿る。
「玲奈。報告を聞こうか」
娘の名を呼ぶ声は、甘さのかけらもない。
玲奈は姿勢を正し、静かに答えた。
「……怜司さまは、紗良夫人との間に確かに亀裂を抱えておられます」
「ふむ。つまり計画は順調だというわけだ」
英臣の唇が薄く吊り上がる。
「鳳条グループの社長と西園寺家の令嬢の結婚は、盤石な同盟にすぎん。
それを壊せば、我が神宮寺が優位に立てる。……そのためにお前がいるのだ、玲奈」
玲奈は静かに頷いた。
だが、その胸の奥では小さなざわめきが広がっていた。
(――私は、本当に父のためだけに動いているの?)
怜司の鋭い瞳、妻を侮辱するなと断言したあの声。
思い出すたびに、胸の奥が熱くなる。
「怜司を揺さぶり続けろ。やがて紗良は自ら身を引く。そうなれば鳳条は孤立する」
英臣は冷酷に言い放った。
「お前にとっても悪い話ではないだろう? 幼い頃から怜司に惹かれていたのだろう」
「……!」
玲奈の頬がわずかに赤くなる。
父に見透かされていることが悔しくて、唇を噛みしめた。
「……私は任務を遂行するだけです」
そう言いながらも、その声には微かな揺れがあった。
英臣は娘の反応に気づいたのか、冷ややかに笑った。
「ふん。任務だろうと恋情だろうと構わん。結果を出せばいい」
玲奈は深く一礼し、部屋を後にした。
廊下に出た途端、張り詰めていた表情が崩れる。
胸に手を当て、乱れる鼓動を必死に抑えた。
(違う……私は駒じゃない。怜司さまを本当に手に入れたいの……?)
父のため、家のため――そう自分に言い聞かせてきた。
けれど今は、別の想いが確かに芽生えていた。
「……どうすればいいの」
玲奈は誰にも聞こえない声でそう呟き、暗い廊下をひとり歩き去った。