Semisweet.
 会議室を出てすぐ裏口まで瑞野を連れて行って壁に押しやる。


「何考えてんのよ、あんたは。」

「わお、逆壁ドン?早速積極的。」

「死にたくなきゃその無駄な口閉じな。」


 恐らく目力たっぷりであろう顔を瑞野に近付けて詰め寄ると私の方に顔を向けなくなった。

 強引な事したという自覚はあるのか、あまり目を合わせようとしない。


「まず、菜穂は困ってたじゃん。」

「それは、そうだね。」

「で、俺も毎度毎度同じ社内の人に迫られるのだるかったし、ちょうど良いんじゃねぇかなって名案が浮かびまして。」

「何あんたは話すっ飛ばして正当化してんだ。ふざけんな。」


 ツッコミどころ満載のこの男はそれ以上語ろうとしない。

 完結すぎて逆にそのくらいの理由で…?と疑問を持ってしまう。


「お前もしばらくは新しい恋とか、出来ないだろ。このまま会社には結婚しましたって(てい)にしたっていいと思うし、それからは離婚しましたって言ってもいい。ひとまず俺も仕事に集中するためにその設定の方が都合良いなって思ったわけ。」

「…嘘をどこまで重ねる気なの。」

「案の定、嘘が本当になる事もあるかもしれないし。分かんねぇじゃん。その辺は。」


 嘘が本当になるかもしれないって…。
 これがきっかけで私達が本当に結婚することもあるかもって事…?

 いやいやと思わず少し笑って、額を抑えて瑞野から離れる。

 本当におかしな展開になってきた。どうしてこんなことに…。
 こっちはまだ失恋の傷も癒せていないと言うのに。


「なあ、良くね?お互いにメリットしかないと思うけど。」

「…後で話しましょ。早って事は帰り早いのよね。家まで行くから、家で待ってて。」

「おっけー、酒買っとく?」

「いらないから、バカ。」


 一緒にひとまず事務所に戻る。


「あ、今日から匠って呼んで。」

「ああ、もうそれもだった…!別に職場でしか偽らないし、今まで通りでも良いでしょ!」

「恋人同士で苗字呼び変じゃね。」

「公私混同禁止!」


 そんな言い合いをしながら戻った事務所では、まだ噂になっていなかった。

 副支配人は言いふらす人ではないので、私達がこのまま何も言わなきゃバレることは無い、無いのだけど。
 これ、私瑞野と交際なんて話出たらまずいのでは!?


「瑞野。」

「あ?」

「交際報告まだ待って。」

「は?」


 あ?の次はは?とは…。
 一言しか発せない呪いでもかかっているのかこの男は。
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