Semisweet.
 タクシーで瑞野の家に着くと、瑞野を起こす。


「家着いた、降りな。」

「…あ、この子もここでおります。」


 そう言いながら勝手にQR決済でお支払いしようとしている。

 その手を止めようとするも、さっさとQRコードを読み取り金額を打ち込んで支払いしてしまっている。

 私の話を聞く気も無ければ、逃がす気もないようだった。


「ちょっと!私家まだ先!」

「良いから。お世話になりました。」


 そう言いながら私の腕を引っ張って一緒にタクシーを降りさせられてしまった。

 瑞野を睨みつけると涼しい表情でこちらを見下ろして、腕を離さないまま「行こ」とだけ声を掛けて瑞野が住むマンション内に歩みを進めている。


「行かないって!」

「騒ぐなよ。近所迷惑で追い出されたら菜穂の家に住み着くから。俺。」

「勝手な事言うなこの馬鹿!」


 拉致されているこの状況を作っている男が何が近所迷惑だ。

 もっと他に気にするところあるだろう。

 瑞野の部屋の鍵を開けて、中に入るとそのまま玄関先で抑え付けられて至近距離で見つめ合っている。

 キスされるかと思えば見つめ合うだけ。

 でも、この状況であれば、すぐにキスで視界も思考も塞がれた方がマシだった。見つめ合っているこの状況が凄く恥ずかしい。


「なぁ、キスしてよ。」

「…は?な、何言ってんの。しないよ。」

「菜穂も、俺の事好きでしょ?」


 そう言われて顔に熱が溜まる。

 誤魔化せているとは思っていなかったけど、こんな風に直接的に詰められると思っていなかったから油断していた。


「…好き、だけど、今はごめん。」

「まだ怖い?捨てられちゃうかもって。」


 全部見透かされていて何も答えられない。

 何も答えない私に瑞野が少し笑って「離してって言っても離すわけないのに、どうしたら伝わってくれる?」と、そう言葉にしているのに笑っているはずのその表情はあまりにも切なくて見ていられない。


「…ごめん、菜穂が悪いわけじゃない。……あー、もう、本当元カレ殴りに行きたい。」


 そう言いながら私から離れて、そのまま靴を脱いで中に入って行く。

 瑞野が悪いわけじゃないの、私も分かっているよ。
 悪いのは、いつまでも過去に縛られて前に足を出せない私だ。


「…瑞野、ごめん。私、ここで帰るね。」

「こんな夜中に帰るとか言うな。女1人が危ないな。俺ソファーで寝るから、シャワーとか適当に使って良いし、寝室使って。手は、出さないから安心していいよ。」


 そう言われれば甘えるしかない。

 こんなに瑞野は私を大事にしてくれているのに何が不服なんだろう。
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