最強で、最孤
見えない距離
「......そろそろ、黒瀬に連絡したほうがいいんじゃないか?」

放課後の剣道場。重い空気の中、加藤が言った。

道場には、鈍い音だけが響いていた。素振りの音、面の音。すべてがどこか弱い。

「勝ちたいって言ってたよな、みんな」

「......うん。でも、それってどこまで本気なんだろうね」

佐伯の言葉は、まるで自分に向けたもののようだった。

目の前の部員たちは確かに動いている。声も出している。けれど——何かが足りない。


まだ瑠那が頃の道場は、とても静かだった。

でも、そこには“本気の音”があった。

今の道場は、賑やかだけど、なにかが薄い。

まるで、形だけの熱量。芯がない。
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