SWAN航空幸せ行きスピンオフ!〜雷のち晴れ〜

雷雲

 十一月、時刻十七:〇七の東京国際空港グラハンスタッフルーム。
 希空のチームのリーダーが難しい顔になった。

「まずい」
「愛妻弁当が? 殺されるわよ」

 チームの女性が茶々を入れる。

「嫁ちゃんの料理はいつも最高! ……雷が落ちそう」

 リーダーの声にメンバーが彼の周りに集まった。

「十一月なのに?」

 メンバーの問いにリーダーは首肯し、さらに呟く。

「そう。しかも発生位置、空港ドンピシャ」

 希空もメンバーの後ろからリーダーが凝視しているディスプレイを覗き込んだ。
 画面には、東京国際空港上空に大きな雲の塊ができている。

「爆弾低気圧?」

 スタッフの一人が呟く。
 リーダーは首を振った。

「ちょっと違う。冬でも高気圧になるんだけど、それがシベリアからの冷たいやつで」

 リーダーの説明をメンバー全員で聞き入る。

「それが日本海を渡るときに水分をたっぷり含むんだ。おまけに上昇気流だから雲を形成しやすい。……雷雲をね」

 だから日本海沿岸沿いは冬でも落雷が発生しやすいんだというリーダーの言葉に皆、納得しかけ。

「……だったら、山脈に阻まれるんじゃないの?」

 メンバーの問いに、リーダーはますます難しい顔になった。

「ほとんどはね。でも、こいつは山をものともしなかったらしい」

 言葉と同時にピカ、と空が光った。  

「うわ!」
「きゃっ」

 メンバーの口から悲鳴が起こる。

 一、二、三。
 希空が心の中で数えていると、ゴロゴロ……という音が来た。

「約一キロ」

 希空の呟きにメンバーの視線が集まった。
 独り言を聞かれていたことに頬を染めながら、希空は説明する。

「音は一秒間に三四〇メートル進むと言われてます」

 光ってから音が鳴るまで何秒あるかを数えていると落雷のおよその距離がわかる。
 説明したら、皆がほえーという表情になった。

 誰かがなにかを言いかけた途端、スタッフルームの外で稲妻が走る。すぐさま、ドーン、バリバリという炸裂音が聞こえてくる。窓がビリビリと振動した。

「近いな!」

 リーダーが狼狽えた声を出してから真剣な表情になった。

「……まずい。近辺の飛行機が着陸を一斉に求めてくる。着陸ラッシュになるぞ!」

 彼の声にバタバタと皆、地上支援をするため駆け出した。

 希空もトーイングカーに向かいながら心配になる。
 夫の理人が今日、沖縄から帰ってくるのだ。

「理人さんがこっちに戻ってくるまでに、雷雲が消滅してくれるといいけど」

 風に吹かれて太平洋上へ飛ばされるのが望ましいが。
 海には船が、そして空を飛んでいる飛行機がいるかもしれない。

「誰も奇禍に遭いませんように」

 希空の祈りは虚しく、雷はますます激しくなった。
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