おやすみなさい、いい夢を。
少し歩いたあとで、理緒がぽつりと言う。
「病室分かったらまた連絡する。良かったら会いに来て。……あ、別に花とかはいらないから」
「絶対、毎日でも行く」
そう言った私を見て、理緒は一瞬だけ目を細めてありがとう、と笑った。
でもそのあと、ふっと視線を外しながらつぶやく。
「……こないだ、主治医の先生と事前に会ったんだけど」
「うん?」
「なんか、真面目そうで……ちょっととっつきにくい先生だったな。そもそも私と距離取りたそうな感じするし……上手くやれるか、不安」
「へぇ……そうなんだ」
医者のことなんて、私には分からない。
でも、理緒の声の奥に隠しきれない震えがあるのだけは伝わってきた。
「大丈夫だよ」
とっさにそう言葉をかけたけれど、その「大丈夫」がどこまで本物で、どこまで理緒を支えられるのか。
自分でも分からなかった。