危険な隣人たち

竜也side

竜也は、どこか遠くを見つめていた。
家の庭にある桜の木が、しだれながらも春を迎えようとしていた。

「竜也、お前もそろそろ手伝え。家業のことを覚える時期だ」

父、西園寺彰男の声が響く。
竜也は無言でうなずく。
その日から、彼の日常は一変した。

家業――それは、ただの暴力団の構成員という意味だけではない。
家族の名を背負うということ。
どんな小さな命令も、従うことが求められた。

「これ、持って行け」

西園寺組の幹部が渡してきた書類を、竜也は黙って受け取った。
指定されたビルの一室で、簡単な“連絡事項”を伝えるためだ。

彼が向かう先には、冷たい鉄の扉が立ちはだかる。
裏社会で知っている顔、知らない顔。
竜也は無言で、肩をすくめて、必要最低限の言葉だけを交わす。

だが、思っていたよりも苦痛は少なかった。
彼は、これが自分の未来だと、すでに理解していたから。

――そして、彼の心に芽生えていたのは、**ゆいへの“独占欲”**だけだった。

「ゆいに……何があっても近づけさせない」

それが、竜也の血に流れる誓いだった。
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