あの町の言葉、この町のわたし

第3話 さくらの告白と、揺れる心

翌日の放課後。菜月はさくらを喫茶店に誘った。

「さくらちゃん、今日は時間作ってくれてありがとう」

「ううん、こちらこそ。菜月ちゃんと二人でゆっくり話したかったから」

二人はコーヒーを注文して、窓際の席に座った。

◆切り出せない雰囲気◆

最初は他愛ない話をしていた。授業のこと、お茶部のこと、最近の出来事。

でも、二人とも本題に触れられずにいた。

「あのね、菜月ちゃん」

「うん?」

「圭介先輩とは、うまくいってる?」

さくらの声が少し震えていた。

「まだ返事してないがやて」

「そう…」

「でも、圭介先輩はすごく優しくて、待っててくれるって言ってくれた」

さくらの表情が曇った。

「菜月ちゃんは、圭介先輩のこと好き?」

「うん、好きやと思う」

さくらが俯いた。

「そっか…」

「さくらちゃん?」

「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくる」

さくらが席を立った。菜月は不安になった。

◆お手洗いで◆

さくらは洗面所で自分の顔を見つめていた。

「ダメだよ…泣いちゃダメ」

涙を堪えながら、深呼吸をする。

「菜月ちゃんが幸せならいいんだから」

でも、涙が止まらなかった。



さくらが席に戻ってきた。目が少し赤い。

「さくらちゃん、泣いてた?」

「ううん、大丈夫」

「大丈夫やないやろ?」

菜月がさくらの手を取った。

「さくらちゃん、前に言いかけたこと、聞かせて」

さくらは深呼吸をした。もう隠せない。

「私ね…」

「うん」

「菜月ちゃんのことが…好き」

菜月の心臓が止まりそうになった。

「友達としてじゃなくて、女の子として、好きなの」

さくらの涙が溢れた。

「最初は、ただ仲良くしたいだけだと思ってた。でも、いつの間にか、菜月ちゃんのことばかり考えるようになって」

「さくらちゃん…」

「菜月ちゃんの笑顔が好き。方言が好き。一生懸命なところが好き。全部、全部好き」

菜月は言葉が出なかった。

「でも、圭介先輩が現れて、菜月ちゃんが嬉しそうにしてるのを見て、胸が苦しくて」

「ごめん、気づかんくて…」

「気づかなくていいの」さくらが首を振った。

「私の勝手な気持ちだから。菜月ちゃんは何も悪くない」

「でも…」

「菜月ちゃんには圭介先輩がいて、その人を好きになったんでしょ?」

菜月は頷いた。

「やったら、それでいいの。私は…我慢するから」

「さくらちゃん、そんな…」

「大丈夫」さくらが無理に笑顔を作った。

「私、強いから。菜月ちゃんの幸せを見守るくらい、できるよ」

でも、その笑顔は涙でぐちゃぐちゃだった。

◆菜月の涙◆

「ごめん、さくらちゃん」

菜月も泣き出した。

「私、さくらちゃんのこと大好きやて。でも、恋愛としては…」

「分かってる」さくらが菜月の涙を拭いた。

「菜月ちゃんが謝ることじゃないの。私が勝手に好きになっただけ」

「でも、さくらちゃんを傷つけてしまった」

「傷ついてない」

「嘘やろ?」

さくらは少し笑った。

「嘘だよ。めちゃくちゃ傷ついてる」

二人は泣きながら笑った。

「でもね、菜月ちゃん」

「うん?」

「好きになれてよかったって思ってる」

「え?」

「菜月ちゃんを好きになったから、こんなに誰かを想う気持ちを知れた」

さくらの言葉に、菜月はまた涙が溢れた。

「だから、ありがとう」

「さくらちゃん…」

二人は手を繋ぎ合った。

「これからも、友達でいてくれる?」

「当たり前やて」

「よかった」

さくらが本当の笑顔を見せた。まだ涙は止まらないけれど、少しすっきりした表情だった。

◆喫茶店を出て◆

「さくらちゃん、大丈夫?」

「うん。言えてよかった」

「私、圭介先輩の告白、受けてもいい?」

菜月が恐る恐る聞いた。

「もちろん。菜月ちゃんの幸せが私の幸せだから」

「ほんまに?」

「本当。ただ…」

「ただ?」

「時々、私にも菜月ちゃんの時間をちょうだいね」

「もちろんやて!」

二人は笑い合った。

「あ、そうだ」さくらが思い出したように言った。

「未来ちゃんにも、気をつけてあげて」

「未来ちゃん?」

「私と同じような気がする」

菜月は驚いた。

「未来ちゃんも…?」

「確証はないけど。でも、菜月ちゃんを見る目が、私と同じな気がするの」

菜月は複雑な気持ちになった。

◆寮に帰って◆

「ただいま」

「お帰り。目、赤いけど、大丈夫?」

未来が心配そうに聞いた。

「うん、さくらちゃんと色々話してきた」

「そう…」

未来はなぜか、その答えを聞くのが怖かった。

「未来ちゃん、ちょっと話してもいい?」

「もちろん」

二人はベッドに並んで座った。

「実はね、さくらちゃんから告白された」

未来の心臓がドキドキした。

「私のこと、好きやって」

「そう…」

「私、びっくりしたけど、でも嬉しかった。さくらちゃんの気持ち、すごく嬉しかった」

未来は複雑な表情を浮かべた。

「でも、私は圭介先輩のことが好きで」

「分かってる」

「さくらちゃんには申し訳ないって思ったけど、正直に伝えた」

「それでいいと思う」

未来の声は震えていた。

「未来ちゃん?」

「なんでもない」

「あのね、さくらちゃんが言ってたがやけど…」

「何を?」

菜月は迷った。でも、聞かないといけない気がした。

「未来ちゃんも、私のこと…」

未来は俯いた。

「どう思ってるの?」

長い沈黙。

「菜月ちゃん」

「うん?」

「私も…菜月ちゃんのことが好き」

菜月の目が大きく開いた。

「いつからか分からないけど、気づいたら、菜月ちゃんのことばかり考えてた」

「未来ちゃん…」

「でも、大丈夫」未来が笑顔を作った。

「さくらちゃんと同じ。菜月ちゃんが幸せならいいの」

「そんな…」

「本当よ。私、菜月ちゃんの一番近くにいられるだけで幸せだから」

未来が菜月の手を握った。

「だから、圭介先輩と幸せになって」

「でも、未来ちゃんを傷つけてしまう…」

「傷ついてない」

「嘘やろ?」

「嘘だよ」未来が泣き笑いした。

「めちゃくちゃ傷ついてる。でも、それでもいいの」

菜月は未来を抱きしめた。

「ごめん、ごめんね」

「謝らないで。私が勝手に好きになっただけだから」

二人は抱き合って泣いた。

◆その夜◆

ベッドに入った後も、菜月は眠れずにいた。

さくらと未来、二人から告白された。

二人とも、自分のことを想ってくれていた。

でも、自分は圭介先輩が好き。

「私、どうしたらええがやろう」

小さくつぶやいて、菜月は天井を見つめた。

携帯を取り出して、悠真に電話をかけた。

「もしもし、悠真?」

「おう、菜月。どうしたん、こんな夜中に」

「実はね…」

菜月は今日の出来事を全部話した。さくらの告白、未来の告白、そして自分の気持ち。

「なるほどな。モテモテやん、菜月」

「笑いごとやないやて!」

「ごめん、ごめん。でもな、菜月」

「うん?」

「誰かを選ぶっていうことは、誰かを傷つけるってことなんや」

「そうやの…」

「でも、それから逃げたらあかん。自分の気持ちに正直にならんと」

「正直に…」

「菜月が圭介先輩を選ぶなら、それでええ。さくらちゃんも未来ちゃんも、きっと分かってくれるやろ」

悠真の言葉はいつも的確だった。

「ありがとう、悠真」

「いつでも相談乗るからな」

「うん」

電話を切った後、菜月は決意した。

明日、圭介先輩に返事をしよう。

さくらも未来も傷つけてしまうかもしれない。

でも、それが自分の気持ちに正直になるということ。

そして、二人との友情は絶対に守る。

そう心に誓って、菜月は眠りについた。

窓の外では、月が優しく輝いていた。

恋は複雑で、時に誰かを傷つけてしまう。

でも、それでも前に進むしかない。

菜月の新しい一歩が、明日から始まろうとしていた。
< 19 / 25 >

この作品をシェア

pagetop