君と始める最後の恋
────翌朝


”しごでき桜庭の朝は営業として頑張る先輩を爽やかに出迎える所から始まる。”


「おはようございます!一ノ瀬先輩!」

「…おはよ。」


”少し眠たそうに返す先輩に甘めで優しい味のコーヒーをそっとデスクに置いて、朝から目を覚ましてスッキリした状態で仕事して頂けるように気を回すのだ。”


「桜庭さん。」

「はい?」

「そのムカつくナレーションやめて。うるさい。」


 うるさいと一蹴されてしまった私の渾身のナレーション。あまりにも不憫だ、我ながら可哀想。ちぇっと少し不貞腐れながらも、メールで来ていたファイルを開いて今日もチェックする。物覚えが悪いので何度も見ないと覚えられはしないため、朝はこの作業から始まる。

 今日も一ノ瀬先輩は長くて綺麗な指でキーボードを叩いている。すごく細身なのに白くて綺麗な手は血管が浮いていて、それでいてごつごつしていて男の人を感じさせた。

 一ノ瀬先輩って、こんな綺麗な顔してて彼女とか居ないのだろうか。プライベートが中々謎な先輩だ。どこら辺に住んでるとかも当然知らないし、何が好きとか休日は何をしているとか何も知らない。

 そんな余計なお世話な考え事をしていると突然後ろから肩を掴まれた。


「さっくらばさん!」

「はいっ!桜庭です!」


 私の肩を掴んできたこの方は高橋さんで3つくらい上の女性の営業補佐の方。ショートカットが似合っていて朗らかな方だ。


「今晩君の歓迎会を開こうと思うんだけど予定どう?お酒好き?」

「歓迎会…!まさかして貰えるとは思わず!」


 物凄く急だけど…!私が来れないと言ったらどうするつもりだったのだろうか。と、そんな野暮な事は口に出さない。


「一ノ瀬も来るでしょ?」

「いや、俺は予定あるんで。 」

「何をー!?自分の補佐担当の歓迎会に来ないなんてことある!?」


 一ノ瀬先輩は面倒そうな表情をまた浮かべていた。本当に隠す気もあまりないのか、全面的に出てしまっている。

 急に言われたら予定があるのは何もおかしくない。
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