君と始める最後の恋
「じゃなくて…、その…。」


 中々言葉が出ない私を急かす事をせず、待ってくれている。
 それなのに、今日一緒に夕飯行きませんかのたった一言が出てこない。

 私がもたもたとしていると、ガチャっと資料室のドアが開き、誰かが入って来た。


「一ノ瀬さん、そろそろ出ないと時間が。」

「今行く。」


 入ってきたのは小川くんで私が先輩の腕を掴んでいる所が見られてしまった。こんなの見られちゃいけないのにまずいと、少し焦る。

 そんな私とは対照的に先輩は冷静で、いつも通りだった。


「桜庭さん。」


 名前を呼ばれて顔を上げると一ノ瀬先輩がポケットからスマホを出して軽く振ると「これで詳細送る。その事も。」と言って、私の手を優しく下ろして資料室を出ていった。


「(その事もって、夕食のお誘いバレてた!?)」


 思わず嬉しくて両手で口を塞いでその場にしゃがみ込む。

 本当、最後まで言えなかったけど、察して無かった事にしないでいてくれる先輩が大好きだ。
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