君と始める最後の恋
「郁。」


 ほら、名前を呼ばれただけでこんなにときめけるの類くんしかいない。今頃元彼が来ただけで心変わりなんてするわけがない。


「…本当に悩んでなんかないです。悩むも何も答え決まってるので。」

「だったらいつもみたいにバカみたいに笑ってなよ。そんな顔させてるのは誰が原因?」

「それは…。」


 答えに詰まってしまう。もしかして話聞く為だけに来てくれたのかな。類くんはなんだかんだ面倒見が良いし、周りをよく見てるから私の小さな変化にも気付いてくれる。そんな所が好きだけど、今は…今だけは、見逃して欲しい。

 そう思っていると類くんは軽く一息吐く。


「いつになったら頼ってくれんの…。随分甘え下手になったよね、君。」


 類くんの低い声だけがその場に残りそのタイミングで他の社員も来てしまう。

 もうわからない、どうやって甘えていたとかわからない。


「…今日、一緒に帰るから先帰んないでね。」

「え?」

「約束。」


 それだけ言うと、自販機で落とされたカップに入ったコーヒーを手に握らせてくれてその場を離れる。

 一方的に約束されて強引なのに今思わずときめいてしまった。こんな険悪になった時に思う事じゃないかもだけど、好きだ…。

 その場にしゃがみこんで他の社員に変な目で見られていた事は私しか知らない。
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