君と始める最後の恋
 その日の夜、落ち着いたという話は本当だったようで、類くんが前と同じくらいの時間で帰ってきていた。


「てか、君有給まだ残ってるよね。」

「残ってたと思いますけど。」


 料理をする私に類くんがネクタイを緩めながら「そう」と返事をして、カレンダーを見ながら何かを考えている。


「来月の頭の土日月って、空けといて。」

「え、何でですか?」

「2泊3日位で旅行行こう。」


 類くんの思わぬ提案に料理していた手が止まる。

 旅行なんて言い出すと思っていなかったから、本当に予想外。

 最近本当に旅行なんて行って無かったから嬉しいお誘いに思わず類くんに抱き着いてしまう。


「また君は急に抱き着いて。」

「嬉しいです、大好きです!」


 そう伝えると類くんはほんの少しだけ驚いた顔をしてそれから柔らかく笑ってくれる。


「久しぶりに聞いた、君の好きって言葉。結局何を意地になって避けてたわけ?」


 その質問に思わず固まる。

 それからそっと類くんから離れようとすると、逃げない様にか首の後ろに手をやられて動けなくなる。

 それから目は笑ってないのに口元には怪しく弧を描いて「何を考えてた?」と聞かれてそこで大人しく観念する事にした。


「…上原さんに嫉妬してたんです。」

「…は?」

「一緒に居られて良いな。仲良いな。って嫉妬してたんです!こんなの言わせないでください!」


 そう言いながら類くんの胸元を押しても、全然離してくれない。

 至近距離で顔を見られて余計に恥ずかしさが昇ってくる。


「避けられたりとかしたのは本当にムカついたけど、可愛いから許した。」

「え?」

「俺ばっかと思ってたから。君も嫉妬なんてするんだ。」


 嬉しそうに言う類くんの胸元を軽く叩いて顔を逸らす。

 こっちは結構本気でモヤモヤしていたのに、可愛いなんて言葉で機嫌直させられて堪るか。

 流石のちょろい私でも今日は笑った事も許しはしない。
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