君と始める最後の恋
突き放されても
────Side 郁


 あれからも何度も何度も考えた、一ノ瀬先輩の事。

 何で沙羅先輩の代わりなんて言ったのか。何であんな発言して突き放したのか。デート中、帰る流れで「忘れさせてくれるんじゃなかったの?」って引き止めてきたのは何だったのか。いくら考えても先輩の事なんて理解出来そうにない。

 その答えが出ないまま、週明けの仕事。毎度早く着いて45分になるのを楽しみにしてたはずなのに、今日は始業の15分前が来るのが怖い。

 どんな顔で私先輩に会えばいい?会ったら泣いちゃいそうになる。伝えない方が、良かったんだろうか。好きだなんてこんな迷惑な感情。と、負の感情がぐるぐる回っていた。

 40分に時計の長針が差した頃、立ち上がって給湯室に向かっていた。別にこれは一ノ瀬先輩にやってって言われたわけじゃない。コーヒー好きな先輩に朝から喜んでほしいからって自分勝手に始めただけ。別にしなくてもいいのに、毎日やってるからって今もこうして自然に淹れに来ている。

 だけど今日は給湯室に逃げ込んでしまっているのかも。席に戻る方が嫌だ。ここから戻ったらきっと、先輩は来ているだろう。


「…先輩のバカ。」


 その呟きは誰にも届かないで虚空に消えるだけ。

 私もあの時怒る事が出来たら違ってた?
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