君と始める最後の恋
────Side 類


 彼女が走って帰った事に少し安堵した。

 本当に沙羅の代わりになるとか言い出されたらどうしようかと思ったけれど、流石に俺のこの発言には嫌気を差してくれたみたいだ。

 彼女の真っ直ぐな好意を受け取り続けるだけなんて俺には出来なかった。彼女と一緒に過ごしてみて、楽しかったのは間違いじゃない。

 それでも沙羅の事を忘れるにはまだ時間もかかりすぎるし、彼女を巻き込みたくなかった。

 ソファーの背凭れに深く背を預けてふと床を見れば、俺が昼間彼女に買ったぬいぐるみが落ちていた。

 ”可愛い後輩”な事に間違いはないけれど、恋ではない。


「(だからこそ無理だろ。中途半端に付き合うとかそんなん。)」


 彼女の気持ちには薄々気付いていたのに、何も出来なくて結果傷付ける様な真似をしてしまった。これ以上傷付けない様にこの選択をして、これで良いと納得しているはずなのに、昼間の彼女の楽しそうな笑顔と先程の傷付いて泣いている顔が頭から離れない。


「…本当面倒くさい。」


 そう呟いてぬいぐるみを拾い上げる。

 俺は君を傷つけるくらいなら、君の好きな人なんかで居たくない。ただの先輩後輩で、それでいいんだよ。

 10年にもなる沙羅への思いは簡単に消せそうにはない。
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