ぜんぶ、ちょうだい。



俺に好きだなんて言いながら、この一か月、何してんだよ。


そう思ってしまう自分を、どうにも止められなかった。


急に避けるみたいに、俺の前から姿を見せなくなって。


あんな顔で、あんなこと言っておきながら。


正直、逃がすわけなんて、さらさらなかった。



「かお、これ終わったらラーメン行かね?」



隣から声がして、現実に引き戻される。



「アリ」



短く返事をして、また刷毛を動かす。


推薦で大学進学がもう決まっている俺と(はた)。二人で、文化祭に使う看板の色を塗っている。


他愛もない話。いつも通りの時間。


なのに、さっきから秦の話が、右から左へ流れていく。


聞いているつもりなのに、頭にはまったく残らない。


刷毛に含んだペンキが垂れて、それを慌てて伸ばす。



「かお、話聞けよ」



少し呆れた声。


分かってる。

分かってるけど。


それどころじゃない。


< 146 / 310 >

この作品をシェア

pagetop