溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
「……俺のことが、嫌いになったのか?」
先ほどのまでの威勢のいい声と違い、酷く沈んだ声が聞こえる。
「へ?」
顔を上げるも、彼の表情を見る前に抱きしめられた。ぎゅっと優しく抱きしめられるが、心なしかいつもよりも力が強い。
「ちょ、」
「俺は今まで、美咲のことだけを見てた。ずっと好きだ。だからこそ、重くなりすぎないように愛を伝えたつもりだった」
智仁が一途だったのは分かっている。どれだけパーティーに参加しても、絶対に浮気せずに私のことだけを見てくれていた。
でも、駄目なのだ。彼ほど優れた人なら、どんな大物とでも結婚できるだろう。その機会を、私なんかで消費するのは勿体ない。
そう、わざわざ私を選ぶ必要はないのだ。
「き、嫌いになったわけじゃなくてね。その、好き故の決断っていうか…。ほら、智弘には幸せになってほしいのよ」
「なら、問題ない。むしろ、美咲がいない方が嫌だ」
「あのねぇ、」
何かを言う前に、唇を塞がれる。さり気なく背中に回された手が、腰をなぞる。
その感触にぞくぞくしていると、唇を離した智弘は、それはそれはいい笑顔を向けてきた。
「これだけ愛を伝えても、まだ『別れよ』なんて言うということは、まだまだ伝えてもいいんだな。いや、伝えないとだな」
「な、何言って、」
「重くなりすぎないように加減してたんだ」
爽やかな笑顔でとんでもないことを言われる。
知らない。こんな智弘、しらない。
「まって」
「待たない」
何とか逃げようともがくも、容易く抱き上げられる。いわゆる、お姫様抱っこだ。
「まずは、な?」
「な?じゃない!」
暴れたところで勝てるわけもなく、彼の寝室へと向かう足を止めることはできなかった。