溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い

祝福の鐘は、始まりの鐘

 数か月後、雲1つない晴天の日のこと。

「あー…緊張する」

 純白のドレスに身を包んだ美咲は、何度目かの深呼吸をしていた。そんな彼女を見て笑うのは、親友の凜だ。

「緊張するのは分かるけど、楽しむことは忘れちゃダメだよ?」
「えっと、入場してケーキ入刀…違う、えっと、挨拶?ビデオ?感謝の言葉?あれ、お色直しはいつだっけ…」
「みさき~」

 くすくすと笑いながら、凜は美咲の目の前で手を振った。目を回している彼女は、そこまでされてようやく話しかけられていることに気が付いた。

「え、っと、何?」
「花嫁がそんな顔してたら、皆不安がっちゃうでしょ?」

 はっとして美咲は鏡を見た。そこには、顔を真っ青にしている自分が映っていた。泣きそうな、苦しそうな表情をしている。これでは、せっかくの化粧が台無しだ。

「…うっ、ごめん」
「美咲はさ、ただ選ばれただけじゃないんだよ。美咲だって選んでる。2人は、選び選ばれの関係でしょ?」
「…うん」
 
 凜は、座っている美咲の手を取りながらしみじみと呟く。

「人の心なんて、本人以外には分からないもの。下手したら、本人にだって分からない。だから、信じる。その信頼を『愛情』と呼んでもいいんじゃないかな」

 それは、凜しか知らないあの日の言葉。
 一瞬きょとんとした美咲はその言葉を受けて、すぐにへにゃりと笑った。

「ふふっ、凜は大人だね」
「ううん。本当は皆子どもだけど、頑張って大人のフリしてるだけだよ」

 まるで内緒話をするように、そっと2人で笑う。

「だから、そんなに難しく考えなくていいんだよ。皆も同じようなものだから」
「うん、そうだね。なんだか落ち着いた。ありがとう、凜」
「お安い御用よ」

 太陽のように明るく笑う凜は、元気よくVサインを向けてくれた。それに倣って、美咲もVサインを返した。
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