キミを好きになるまで、あと10秒
第1章
秋の柔らかな陽射しが教室の窓から差し込み、窓辺の鉢植えの葉がそよ風に揺れていた。

高校二年生の花咲ひよりは、朝の空気の清々しさに心が少しだけ弾んでいるのを感じていた。

教室の隅、成瀬優はいつも通り静かにノートをとっていた。


彼は落ち着いた雰囲気をまとい、クラスの誰もが認める穏やかな存在だったが、どこか距離を感じさせる男の子だった。

ひよりの視線は自然と彼に向かう。初めて隣の席になった日から、気づけば何度も目が合っていた。

でも、まだ言葉を交わしたことはなかった。

その日の授業中、ひよりはふとした拍子に消しゴムを机の下に落としてしまった。

慌てて手を伸ばすが届かない。

「……あれ?」ひよりの小さな声に、隣から穏やかな声が返ってきた。

「落ちてるよ」成瀬が静かに教えてくれた。
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