推しが隣に引っ越してきまして 〜月の裏がわ〜
9時半。玄関の前。
「いろいろ巻き込んでしまってすみませんでした。」
目撃者の一人となった佑月くんにも事情聴取は及び、結局、1時間くらい拘束してしまった。
佑月くんの1時間……とんでもない価値がありそうで想像するだけで恐ろしい。
「本当に、ありがとうございました。」
佑月くんに、2度も、命を助けてもらってしまった。
「いや、俺がしたくてしたことだから、凛ちゃんが謝る必要はないよ。」
「すみません……。もう迷惑おかけしませんので、では……。」
ぺこり、頭を下げてドアを開ける。
「俺は、」
声がして、部屋に入るのを止める。
「一度も迷惑だなんて思ったことないよ。」
え。振り返って佑月くんを見る。
「人としては合格でも、アイドルとしては失格だな。」
佑月くんが俯いて呟く。
何かを諦めたような、失ったような切ない顔。
佑月くんのその顔が、不謹慎にも、美しいと思ってしまった。その横顔はあまりにも儚くて目が離せなかった。
果たして本当に、それがアイドル失格に値するのかどうか、私にはわからない。
「そんなことない。そんなことないです」
たとえ人助けでも、特定の女の人と何回か会って、親しくなる。
これを知ったら、傷つく人がたくさんいる。
ひとりを助けることで、多くの人が悲しむ。
でも、佑月くんの、その優しいところを否定することもきっと間違っている。
「そんなこと、言わないでください。少なくとも私は、佑月くんが助けたのが私でなくとも、佑月くんがアイドル失格だとは思いません」
佑月くんが、顔をあげて、少しびっくりした顔で私を見る。
「そっか」佑月くんがちょっと笑う。
「では……」
軽く頭を下げて、部屋に入る。