雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。
さて二時間。
するべき事は何も無かった。
あるとすれば食事の店を決めることくらいだ。
僕は車を出した。
あてもなく道をたどっていくと、かつて通った小学校に出た。
二年生の時に新築された校舎だ。

何もない更地の土地に建物が建っていく。
それを目の当たりにした最初だったのかもしれない。
だけどその校舎も幾分古さを増していた。
八歳の頃だからもう二十五年も前の出来事なんだ。

今はただの何処にでもあるコンクリートの箱。
そしてその中に美沙岐も居たんだ。

僕たちは小学校六年間クラスが同じだった。
一学年三クラス、二年に一度クラス替えがあったから六年間同じクラスというのはまあまあの確率だ。
そして六年間クラスが同じだったのは美沙岐も含めて三人だけだった。
でも美沙岐と個人的な会話を交わした事は無かった。
それにまだ恋がなんなのかさえ、わからずにいた。
その姿がおぼろげに見えてきたのは小学校も卒業間近の頃だった。

僕たちはもう一人、六年間クラスが同じだった幼馴染の加奈子とそれとあと一人、その頃よく遊んでいたアツシと四人でピクニックに行ったんだ。

何でそういう流れになったのかは思い出せない。
でもあの頃の僕達は思春期という入口に立っていて、これから起こるワクワクするような何かに期待を膨らませていた。

でも何も起こらなかった。
正確に言えば、美沙岐はピクニックの中に思春期のかけらも発見出来ず出て行ったんだ。物足りなさを抱えて。
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