雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。
僕は空いているレジには並ばずに彼女のレジに並んだ。
「お次の方、こちらへどうぞ」
という声がしたけど聞こえないふりをした。
ちょっとだけ気まずい空気が流れた。
後ろに並んでいた高齢の男性が軽く頭を下げて、空いてるレジに進んだ。
辺りは静かになった。
僕は彼女の前に立った。
彼女はノートを手に取った。
細くて爪先まで真っすぐな白い手だった。
指輪は無かった。
無機質な音が鳴り金額が表示された。
僕はクレジットカードを差し出した。
彼女は顔を上げた。
目が合った。
「覚えてる?」彼女は無表情のまま「もちろん」と答えた。
後ろに客が並んでいる。
商品を受け取ると僕はその場を離れた。
振り返って見たけど彼女が僕の方を見ることは無かった。
デパートを出ると、遠くで雷の鳴る音がした。
見上げると暗い雲が立ち込めていた。
でも暗い気持ちにはならなかった。
むしろ気持ちが高ぶっていた。
まるで初恋。
いや、そうだ。彼女は僕が初めて好きになった女の子だったんだ。
まだ恋が何なのか、わからない時分に迷い込んでしまった真っ暗な部屋。
結局それが何なのか確かめもせずに部屋から出て行ってしまった。
何をすれば良かったのかもわからず。
今ならわかる。
今、どうすればいいのか。
雷鳴が近くなりつつある。
僕は車から飛び降りて再び彼女のレジに並んだ。
「あと二時間で終わるから」というのが答えだった。
成長。
僕は中学の時、彼女を映画にさえ誘えなかったんだから。
「お次の方、こちらへどうぞ」
という声がしたけど聞こえないふりをした。
ちょっとだけ気まずい空気が流れた。
後ろに並んでいた高齢の男性が軽く頭を下げて、空いてるレジに進んだ。
辺りは静かになった。
僕は彼女の前に立った。
彼女はノートを手に取った。
細くて爪先まで真っすぐな白い手だった。
指輪は無かった。
無機質な音が鳴り金額が表示された。
僕はクレジットカードを差し出した。
彼女は顔を上げた。
目が合った。
「覚えてる?」彼女は無表情のまま「もちろん」と答えた。
後ろに客が並んでいる。
商品を受け取ると僕はその場を離れた。
振り返って見たけど彼女が僕の方を見ることは無かった。
デパートを出ると、遠くで雷の鳴る音がした。
見上げると暗い雲が立ち込めていた。
でも暗い気持ちにはならなかった。
むしろ気持ちが高ぶっていた。
まるで初恋。
いや、そうだ。彼女は僕が初めて好きになった女の子だったんだ。
まだ恋が何なのか、わからない時分に迷い込んでしまった真っ暗な部屋。
結局それが何なのか確かめもせずに部屋から出て行ってしまった。
何をすれば良かったのかもわからず。
今ならわかる。
今、どうすればいいのか。
雷鳴が近くなりつつある。
僕は車から飛び降りて再び彼女のレジに並んだ。
「あと二時間で終わるから」というのが答えだった。
成長。
僕は中学の時、彼女を映画にさえ誘えなかったんだから。