隠れ溺愛婚~投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす~
 丁寧にアイロンがけされたベージュのハンカチは、ほんのりアンバーの香りがする。
 その甘い香りに引かれるように、茉結莉の中で遠い昔に押し込めた恋心が溢れだした。

(私は顔も知らない人と結婚する。だったら、この初恋を一生胸にとどめて過ごせばいい)

 茉結莉はわずかに震える手でハンカチをキュッと握り締めると、心配そうに眉を下げる森野の顔を見つめた。

「森野さんに、お願いがあるんです」
「お願い?」
「今夜だけ……私の恋人になってくれませんか?」

 茉結莉の突然の申し出に、森野は戸惑ったように目線を泳がせる。
 しばらくして森野は近くのベンチに茉結莉を座らせて、自分も隣に腰かけた。

「理由を聞いてもいいかな?」

 森野の優しい声は、決して茉結莉を拒否はしていない。
 茉結莉は潤んだ瞳を上げると、父から聞いた話をゆっくりと話し出した。
 森野は何も言わず、静かに茉結莉の話に耳を傾ける。

「結婚相手のことは?」

 しばらくして口を開いた森野に、茉結莉は大きく首を横に振る。

「噂以外は何も知りません。町工場の敵。自分の利益しか考えず、そのやり方はまさに冷徹で、心のない氷のような人だって」

 茉結莉は再び溢れる涙をハンカチで拭った。
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