隠れ溺愛婚~投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす~
 森野は不思議そうに首を傾げながら、茉結莉の瞳を覗き込んだ。

「あ、あの……」

 茉結莉はなんとか自分の気持ちを伝えようとするが、こんな時どう言ったら良いのかわからない。
 もじもじと言い出せずにいる茉結莉を見つめていた森野は、そっと口元を引き上げると茉結莉の耳元に顔を寄せた。

「まだ帰りたくないって顔してる」

 森野の甘いささやきに、背すじがゾクリとする。きっと森野には茉結莉の気持ちなんてお見通しなんだろう。
 茉結莉は恥じらいながらうつむくと、こくんとうなずき返した。
 でもそれからしばらく、森野は口を閉ざしてしまう。

(やっぱり、迷惑だったんだ)

 茉結莉は自分の身勝手さに小さく息をつくと、キュッと目を閉じて両手の指先を握り締めた。
 どれほど時間が経ったのだろう。テーブルの下で冷たくなった指先がわずかに震え出した頃、森野は再び茉結莉の耳元に顔を寄せた。

「本当に後悔はしない?」

 耳元で響く声は、さっきよりも艶やかさを纏っている。
 茉結莉は一旦深く息を吐くと、真っすぐな瞳で森野を見上げた。

「はい。森野さんだから」

 凛と響くその声に、森野は一瞬目を丸くした後、口元をそっと引き上げる。
 そして茉結莉は森野に手を引かれながら、静かにバーを後にしたのだ。
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