隠れ溺愛婚~投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす~
「今日、ミサゴが来るって」

 二人きりの事務室に、重苦しい空気が流れる。
 今日、三砂慶一郎が会社に来ることになったと、父から聞いたのは数日前だ。
 “ミサゴ”というワードにチクリと胸を痛めながらも、茉結莉は「……知ってる」と、平静を装って声を出した。

「お前、本当にそれで良いのかよ!」

 すると突然、大輔が茉結莉の腕をぐっと掴む。

「い、痛っ……」

 茉結莉の悲鳴に、大輔ははっとすると慌てて手を離した。
 強く掴まれてジンジンする腕をさすりながら、茉結莉はぼんやりと大輔の日に焼けた腕に目線を添わせる。

(森野さんの腕、逞しくて優しかったな……)

 茉結莉はあの夜以降、全身から離れない森野の熱を思い出して深くため息をついた。

 森野とはあれっきり、会ってもいないし連絡も取っていない。むしろ連絡先も知らなければ、苗字以外の名前すらも知らないのだ。
 あの晩、初めてを森野に捧げた茉結莉は、何度も森野から深く愛され、まるで気を失うように眠りに落ちた。
 そして翌朝、心も身体も満たされたまま目覚めた茉結莉の前に、森野の姿はなかったのだ。

(しょうがないよね……それが約束だったし)

 茉結莉は自嘲するように小さく息を吐く。
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