隠れ溺愛婚~投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす~
「じゃあ、いただこうかな」

 三砂のいつもより柔らかな声色に、茉結莉は心臓を跳ねさせると「はい」と言ってキッチンに駆け込んだ。

 茉結莉と三砂は形だけの夫婦だ。生活はそれぞれ自由に、食事も個人でと、最初に言われてはいた。
 それでも、三砂が日々神経をすり減らして仕事をしているのだろうことは、ふとした表情からも伝わっていたし、生活の乱れも身体に触るのではないかと気になっていたのだ。

 茉結莉がダイニングテーブルに秋鮭のソテーとクラムチャウダーを並べた頃、スウェットに着替えた三砂が現れる。
 メガネは普段のメタルフレームではなく、黒縁の細身のものだ。
 いつもと違い、ラフな装いの三砂に妙にドキドキしながら、茉結莉は水の入ったグラスを脇に置いた。

「いただきます」

 三砂は丁寧に手を合わせると、一口ずつゆっくりと味わうように食事を口元に運ぶ。

美味(うま)いな」

 その言葉に、キッチンからそっと様子を見ていた茉結莉は、ほっと胸をなでおろした。
 誰かのために食事を作ったことなんて、今まで一度もない。
 こうして自分が作ったものを“美味しい”と言ってもらえることが、こんなに嬉しいとは思ってもみなかった。
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