隠れ溺愛婚~投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす~
「まさか、第一工場の閉鎖以外にも何かあるの……?」

 ここ最近、経営のことで父が頭を抱えている姿は、何度も目にしている。
 茉結莉は不安な気持ちを抱えたまま、扉を小さくノックした。

 すぐに中から父の低い声が聞こえ、静かに扉を開けた茉結莉は、途端に目に飛びこんできた光景に小さく息を吸う。
 大きなデスクが一つだけ置いてある殺風景な社長室で、父は壁にかかっている祖父の古い写真を見上げていた。

「茉結莉、すまんな……」

 今までに聞いたことがないような、父の悲嘆にくれた声が聞こえる。
 父のただならぬ様子に、茉結莉は目を見開くと慌ててデスクの前に駆け寄った。

「何があったの……?」

 不安に押しつぶされそうになりながら、無理やり声を出した茉結莉の前で、父は寂しそうに小さく笑うとデスクの前の椅子に腰かけた。

「近々、うちの株を売却することになった。正式な手続きが済み次第、実質的な経営権もそちらに移る」
「え……? ど、どういうこと……?」

 想像もしなかった父の言葉に、茉結莉の頭は一瞬真っ白になる。
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