隠れ溺愛婚~投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす~
(会社の、株を売る……?)

 しばらくしてやっと顔を上げた茉結莉の前で、父は深くため息をつくと静かに目を閉じた。

「しかたがなかった。年々業績は悪くなる一方。第一工場も閉鎖し、このままでは会社も従業員も守ることはできない。すべては父さんの商才のなさが原因だ……」

 父の震える声に、茉結莉は愕然とその場に立ち尽くす。
 祖父の急逝を受けて、会社員だった父が右も左もわからないまま跡を継ぎ、社長になったのが八年前。
 父は必死に会社を立て直そうとしていたが、茉結莉の目から見ても、会社の経営状態が危機的状況にあるのは明らかだった。

 それでも、ここには世界が認める高い技術力がある。それを強みに頑張れば、この苦しい時期も乗り越えられるのではと安易に考えていた。

(会社の株を売らなければならない程、追い詰められていたなんて……)

 でもたとえ苦肉の策とはいえ、会社の株を売るということは、実質この会社は他人のものになるということを意味している。

「おじいちゃんの大切な会社が、なくなっちゃうの……?」

 茉結莉の頬を一筋の涙が流れた時、父が静かに顔を上げる。

「先方は、会社はなくさないと言っている」
「そんなの! 信じられるわけない!」

 茉結莉はバンとデスクに両手をついた。
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