隠れ溺愛婚~投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす~
 茉結莉が小さく息をついた時「そういえば……」と三砂が立ち止まった。
 茉結莉は顔を上げると、背を向けたままの三砂に小さく首を傾げる。

「いつもこの部屋には、寝に帰るだけだったんだ。でもなぜか最近、自分の足取りが軽いことに気がついた」
「え……?」

 茉結莉が小さく目を開くと、三砂は優しくそっと口元を引き上げた顔を振り向かせる。
 その顔は、あの日の夜、茉結莉が見た顔と同じだ。

「茉結莉、おやすみ」

 三砂の低い声に、茉結莉の心は熱をもったように早いスピードで叩き出す。

「お、おやすみなさい。えっと……慶一郎さん」

 茉結莉は初めて三砂を名前で呼ぶと、カッと頬を真っ赤に染めた。
 その様子に、三砂は再び目を細めると、静かにリビングを後にする。

(あぁ、どうしよう……)

 パタンと扉が閉まり、急にしーんとした静寂がキッチンに訪れる。
 茉結莉はぎゅっと自分の熱をもった胸元を押さえた。

 余計な考えを全て消し去って、ただ何も考えず三砂の胸に飛び込むことができたら……。
 茉結莉はじわじわと熱くなる自分の身体を抱きしめながら、静かに眠りについたのだ。
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