隠れ溺愛婚~投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす~
「大輔、ありがとう」

 バタンと閉じた扉に向かって小さく声を出す。
 大輔の意識が変わったのは、きっと三砂の本質に触れたからだろう。

「私も逃げてるばかりじゃなく、自分の目でちゃんと確かめるんだ」

 茉結莉は小さく自分にうなずく。
 噂や評判ではなく、本当の三砂慶一郎を知りたいと心から思ったのだ。

 茉結莉は瞳に溜まった涙を指で拭うと、「よし」と自分のデスクに戻ってキーボードに手をのせた。
 いくつかの検索項目を入力して画面を表示させる。
 茉結莉が調べたのは、ミサゴファンドが過去に買収した町工場のリストだ。
 その中から、いくつかピックアップして地図を印刷する。
 茉結莉はプリンターから出てきた用紙を握り締めると、顔を上げて事務室を飛び出した。

 パタパタと茉結莉の足音が事務所の二階の廊下に響く。
 途中工場に接する窓から、職人たちが仕事をする様子を眺めた。
 工場の中では、職人たちがミサゴの社員たちと何やら話をしている様子が伺える。
 つい数週間前までは、新しい体制に反発していた職人たちも、今は大輔と同じように生き生きと仕事に向かっている。

「私だけが立ち止まっていたらダメだよね」

 茉結莉はぐっと手に力を込めると、事務所の玄関を飛び出して行った。
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