隠れ溺愛婚～投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす～

　茉結莉は再び電車を乗り継ぐと、息を切らせながら事務所へと戻ってきた。
　二階へと続く階段を駆け上がりながら、頭の中では三砂のことばかり考えてしまう。

　今夜部屋に帰って来る三砂を、どんな顔で出迎えたらいいだろう。
　岩竹に会ったことを伝えたら、三砂は何と言うのだろう。

「あぁ早く、慶一郎さんに会いたい……」

　茉結莉がそんな事をつぶやいた時、事務所に入る茉結莉の姿を見つけたのか、大輔や複数の職人がこちらに走って来るのが見えた。
　バタバタとやけに大きく響く足音に、事務室の取っ手に手をかけていた茉結莉は、不思議そうに顔を上げる。

「……大輔？　どうしたの……」

　茉結莉がそう言いかけた時、目の前に立った大輔が息を切らせながら、茉結莉の腕をぐっと掴んだ。

「どこに行ってたんだ！」

　大輔の怒鳴り声に、茉結莉はビクッと身体を揺らすと、思わず後ずさりする。

「どこって……少し調べたいことがあって外に……」

　茉結莉はそこまで言って、自分がスマートフォンを一切見ていなかったことに気がついた。

「ごめん。電話くれてたんだね。気がつかなくって……」

　スマートフォンの画面を覗き込んだ茉結莉は、次の瞬間はっと息を止める。
　表示された着信履歴は、会社の番号で埋め尽くされているのだ。

「もしかして、何かあったの……！？」

　慌てて目線を上げる茉結莉に、大輔や皆が緊迫した顔を見せる。
　しばらくして、大輔がゆっくりと茉結莉の前に向き直った。

「いいか、茉結莉。落ち着いて聞くんだ」

　大輔のこんな深刻な表情を見るのは初めてだ。
　茉結莉の心は、一気に不安で押しつぶされそうになる。

　すると大輔は、しばらく口を開くのを躊躇った後、大きく息を吐くとひどく低い声を出した。

「三砂が刺された」

　その言葉に、茉結莉の目の前は一瞬で真っ暗になった。