電車の向こう側。【完結】
「おはよう、未来!」
振り返ると、やっぱり茉希がそこにいた。
笑顔も声の調子も、昨日とまったく同じ。
「……茉希、ねえ、今日って何日?」
「え? 十月九日だよ。どうしたの?」
「あれ?昨日も十月九日じゃなかった?」
「未来、なにそれ、寝ぼけてるの?」
茉希は笑った。
その笑顔も、昨日とまったく同じ。
未来は思わず立ち止まる。
すれ違う老夫婦が、また同じタイミングで手を繋ぎ、同じ場所で笑っている。
世界が、巻き戻っている。
授業が始まっても、違和感は消えなかった。
先生が話す内容も、黒板の文字も、全部昨日と同じ。
「これって夢なんじゃ……」と呟いた瞬間、
隣の席の茉希が「え?」とこちらを見た。
「未来、なにか言った?」
「……ううん、なんでもない。」
未来はうつむき、手帳に“この世界は本物?”と小さく書き込んだ。
その瞬間、窓の外を一羽のカラスが飛んでいった。
その羽ばたきの音だけが、やけに現実的だった。