電車の向こう側。
第5章 世界の底で
朝の光が、昨日とまったく同じ角度で差し込んでいた。
鳥のさえずりも、時計の針の音も、母の声も。
全部、昨日と“同じ”だった。
「未来ー、ごはん冷めちゃうわよー!」
同じセリフ、同じトーン。
それが、昨日と寸分違わず重なった瞬間、未来は手を止めた。
「……同じ?」
そう呟いて笑おうとしたが、胸の奥が冷たくなっていく。
昨日と同じニュース、同じ天気、同じ父の咳。
違うのは、未来の記憶だけ。
学校への道も変わらない。
ジョギングするおばさん、犬を散歩させるおじさん、
仲睦まじい老夫婦。
みんな、昨日と全く同じ位置を、同じ速度で歩いている。
昨日見た光景が、そのまま童顔のように再生されているようだった。