冷酷社長の極上笑顔は私が独り占めさせていただきます
 エレベーターが開くと、先日とは違って黒いスーツに身を包んだ古東さんが現れた。
 スーツ姿だが、なぜか一般の会社員とはかけ離れた雰囲気を(まと)っている。スーツのデザインがそもそもビジネス用ではないし、シャツもグレーの光沢のある生地で、ネクタイは一般的なものより少し細い。
 おそらくどれも高級品のはずなのに、古東さんが着るとどこか浮世離れして見えるから不思議だ。
 
「やぁ、後藤さん! 悪いねぇ、急に来ちゃって」
 
 私は立ち上がり笑顔で挨拶をした。
 
「それでご用件は?」
 
 時計はもう定時をまわっていた。この後、急ぐ用があるわけではないが、できれば早く帰りたい。
 古東さんは私のデスクに手をついて、私の顔に視線の高さを合わせた。
 
「後藤さんに会いに来たんだ。どうしても君に会いたくなって……」
 
 私はギョッとした。後ろに一歩下がる。椅子がガタッと音を立てた。
 
 すると古東さんは急に「あはははは!」と豪快に口を開けて笑い始めた。

「嘘。冗談だよ」
「そ、そうですよね。あはは……」
 
 本当にたちの悪い冗談だ。
 ドキッとしたのを古東さんに悟られないように、私はできる限り平静を装った。
 
 古東さんは上着の内ポケットに手を突っ込み、「古東設計事務所」と社名の入った封筒を私のデスクの上に置く。
 
「これを光輝に渡してほしいんだ」
「はい。お預かりいたします」
 
「それと……ちょっと言いにくいんだけど」
 
 片手を後頭部に当てて、伏し目がちにしていたかと思うと、急に私の目を覗き込んできた。そして今度はズボンのポケットから何かを取り出して私に差し出す。
 古東さんの手に握られていたのはチケットだった。
 
「一緒に行ってくれないかな?」
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